甘やかで優しい毒〜独占欲強めな彼に沼る

それだけで、カップルの痴話喧嘩にしか見えず、仲直りのキスをしてたと思われたらしい。冷やかしの後、私達の周りから人だかりは消えていった。

「な、何がしたいんです?」

「キス以上の事、わからないほど子供じゃないよな」

仕事のできる男が、自分の欲求を少しも隠そうとしない駄犬になりながらも、煽るのもお上手だ。

抱きしめる腕の中で、腹部にあたる物がなんなのかわからないほど、子供じゃないだろと煽られてるのだ。

ムカツク、ムカツク…

こんな男嫌いだ。

私を抱いたら2度と抱きたいと思わなくなるだろう。

そう、私は不感症というやつなのだ。

初めて付き合った人は、社会人になり最初に勤めた先の人だった。父のように見目よく愛想のいい人で、男女問わずに慕われ、私も憧れていた。

告白されて付き合うことになったが、母のようにはなりたくなくて、恋に夢中にならないように気をつけていた。そのせいか彼との行為も楽しめずにいたら不感症呼ばわりされ、浮気され一方的に罵られ別れを告げられた。

私には、恋愛はできないのだと精神的に参り、勤め先を考えなければと悩んでいた頃、たまたま通りかかった道中でパフォーマーが人々を笑顔にしていた。

そんな中、少し離れた場所で私だけは、笑えずに眺めていた。
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