青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
 久しぶりにしっかりと味わいながら食事を済ませ、シャワーを浴び、寝る支度をすると、まだ九時前で手持ち無沙汰になってしまった。

 寝てしまえばいいのだろうけど、なんだか落ち着かない。

 動画でも見ようかと思っても、何を見たら良いか分からないし、趣味らしい趣味もないからただベッドの上に座って膝に手を置いて座っているしかなかった。

 ――私、まずくない?

 今まで何やって生きてきたんだろう。

 史香はスマホを取り上げ、たまたま表示されていた漫画の広告を眺めた。

 上半身裸のイケメンキャラがヒロインを組み敷いたアングルで迫ってくる。

『おまえは俺だけのものだ。誰にも触れさせたくない』

『俺のことしか考えられないようにしてやるよ』

『運命を疑うのか。俺が信じさせてやるよ』

 そんなセリフが蒼馬の顔で脳内再生されてしまう。

 肌がざわついてからだが火照り出す。

 あまり覚えてはいないが、蒼馬にされたことが浮かんでくる。

 ち、ちがっ……そういうのじゃないから。

 史香はベッドの上にスマホを投げ捨て、座ったままの姿勢でコテンと横になった。

 不意に心の中にぽっかりと穴が開いて熱を持っていたからだが冷えていく。

 連絡先だけでも交換しておくべきだったんだろうか。

 だけど、そんなことをしたら余計苦しくなるだけだ。

 遊ばれるだけの関係に何を期待しているんだろう。

 分かっていたからこそ、一晩だけって約束したんじゃないの。

 史香は布団に潜り込むと、何度か寝返りを打ちながら体を丸めて目を閉じた。

 枕に顔を押し当てる。

 抱き枕、買っちゃおうかな。

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