青い鳥はつぶやかない 堅物地味子の私がベリが丘タウンで御曹司に拾われました
「ま、今日のところはこのくらいで」

 余裕の表情で残りのコーヒーを飲み干した男が憎らしい。

 伝票をつかみながら男が立ち上がる。

「おごる代わりに正直な感想を言っていいか?」

「感想?」

「あんた、いい女だな」

 はあ?

「久永里桜みたいなわかりやすい美人じゃないが、妙に色気がある。通好みだな。道源寺蒼馬が惚れたのも分かるぜ」

 な、何を言って……。

「気に障ったならすまないね」

 マスターから領収書をもらって会計を済ませ、二人は店を出た。

 重い足取りで駅へ向かおうとする史香を榎戸が呼び止めた。

「なあ、もしかしてさ」

「まだ何か?」

「あんた、妊娠してるんじゃないのか?」

 ハッとした史香の表情をカメラマンは逃がさない。

「心当たり、あるんだろ」

「いえ、ありません」

 ありすぎて汗が噴き出てくる。

「体に気をつけて」と、男が去っていく。

 後に残された史香は一人ため息をつき、ベリが丘駅へ向かって歩き出した。

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