私が一番近かったのに…
「昨日も今日も忙しかったから、疲れが溜まってるのかも」

下手な誤魔化し方だ。絶対に嘘をついていると、見破られているに違いない。
この際だから、本当のことを話した方が早いのかもしれない。
しかし、いざ話そうと思うと、頭が上手く回らない。
あれ?今までどうやって誤魔化してきたっけ?
もしかしたら、今までずっと勝手に上手くできていると、勘違いしていただけなのかもしれない。

「あまり無理はするなよ。辛い時はちゃんと言えよ。いつでも俺が代わってやるからさ」

仕事が忙しいのは、今に始まった話ではない。全然、辛くはない。
寧ろ辛いのは心の方である。この想いが届かないことがとても苦しい。
どんなに辛くても、心が枯れているせいか、涙は出なかった。
出なかった…というよりは、出せなかったという方が正しいが。
私が涙を流せば、当然のように愁は私のことを心配してくれる。
しかし、そんなことはしたくない。涙を安売りしたくはなかった。

「今のところは大丈夫。旅行に行くために頑張ってるから。
それよりも、愁の方こそ、なるべく休まないように頑張ってね?クリスマスもあるわけだし」

旅行までは頑張ると決めた。
だからこそ、今のうちにたくさん愁に会っておきたい。もう二度と会えないかもしれないから。

「もちろん頑張るよ。稼がないといけないからな。彼女のためにも。幸奈のためにも」

そうやって、今まで何回も私は惑わされてきた。
もう簡単に心を揺るがないと決めた。大丈夫。この言葉に深い意味などないと、分かっているから。

「へぇー。そうなんだ。それじゃ旅行の時、たくさん奢ってもらおうかな」

「そうはいっても基本、懐が寂しいんだけどな。
でもまぁ、仕方ない。たくさん奢ってやるよ。約束したからな」

約束…。そういえば、約束した。
すっかり忘れていた。自分のことで精一杯で。頭から抜け落ちていた。

「そうだったね。絶対だからね?約束は守ってよ?」

「言われなくても、そうするつもりだよ。幸奈との約束は絶対に忘れない」

暗い夜道。誰も見ていないことをいいことに、愁は必ず手を繋いでくる。いつしかそれが当たり前になっていた。
でも、これはいけない行為で。本当は今すぐにでも手を離さなくてはならない。
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