私が一番近かったのに…
その手を離してみたら、一体、どんな反応を示すのだろうか。
もしかしたら、この関係が壊れてしまうかもしれない。
いっそのこと、壊れてしまった方が楽になる。
そんなことを考えてしまう私は、既に狂っている。
楽しかった日々が、とても懐かしく感じてしまう。
好きな人の傍に居られるだけで、幸せだったあの頃にはもう戻れない。
戻れるのであれば、あの頃に戻って、一からやり直したい。愁がまだ私のことを好きだった頃に…。

「毎回調子のいいことだけ言うんだから。
とりあえず、今から期待しておくね」

あともう少しで家に着く。ようやく一人になれる。一秒でも早く一人になりたい。
こんなことを願ったのは初めてだ。そんな自分に、自分でも驚いた。

「なんだかあっという間だな。もう家に着いちゃったな」

私には少しだけ長く感じた。ようやく一人になれると思った。

「そうだね。それじゃ、そろそろ。またね」

いつも通り、いつもの場所まで来たので、去ろうとした次の瞬間。

「待って。まだもう少し一緒に居たい」

潤んだ目で見つめられてしまうと、逆らえなくなってしまう。
でも、今は少しでも長く一人で居たかった。

「ごめんね。今日は無理なの。早く帰ってやらなきゃいけないことがあって。
それに、愁は病み上がりでしょ?今日はまっすぐお家へ帰った方が良いと思う」

本当は家に帰ってやることなんてなかった。愁に嘘をついてでも、私は一人になりたかった。
冷静でいられない自分が悔しかった。もっと大人な対応ができる人になりたい。
そうしたら、こんな苦し紛れな嘘なんてつかずに、素直にあなたの傍に居たいって、伝えられたかもしれない。

「そうだよな。ごめん。俺、自分の気持ちしか考えてなかった。幸奈ともっと一緒に居たくて焦ってた」

どうして、そんな悲しい顔をするの?いつもみたいに余裕な愁でいてよ。

「謝ることじゃないよ。そう言ってもらえて、嬉しかったから。
次はもっと一緒に居られると、私も嬉しいな」

傷つけてしまった罪悪感で胸が痛む。
嘘なんてつかなきゃよかったと、後悔している。

「幸奈、ダメだ。俺はもう…」

突然、愁に抱き締められた。抱きしめる腕が、とても力強かった。
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