私が一番近かったのに…
もし、今、抱いてほしいとお願いして、抱いてもらえなかったら…。
もう二度とその手を伸ばすことはできないまま、愁の傍には居られないと思う。
断られることを何度も頭の中で繰り返した。それでも、私は気持ちを消すことはできなかった。
お願いしてもいいかな?ねぇ、お願い。断らないで……。

「店長から聞いたよ。来週から一緒に復帰だな」

どうやら、店長から先に話を聞いていたみたいだ。復帰を待ち侘びていたようで、嬉しそうにしている。

「うん。無事、先輩も辞めたみたいだからね」

愁も一緒に休んでいたので、復帰も一緒にすることになったみたいだ。

「よかった。あの人がすんなり辞めるなんて思わなかったから、意外だな」

まさに愁の仰る通り、何故あんなにあっさり認めたのだろうか。何か裏があるのでは?と、勘ぐってしまう。

「うん、私もそこはびっくりした。すんなり認めて辞めるんだなって思った」

「そうなってくれてよかったけどな」

急に抱きしめられた。後ろから抱きしめられたため、背中越しに愁の温もりを感じた。

「お前が無事でよかった…。俺は先輩と二人っきりになるのが常に心配だった。
だから、本当に何もなくてよかった……」

力強く抱きしめられた。力は強くとも、優しさを感じた。
その優しさは、私の中で温かい気持ちが流れ始めていた。

「うん。私も無事でよかったと、自分のことながらに思ってる。愁、あの時は助けてくれてありがとう。愁が助けてくれなかったら、どうなっていたか分からなかったと思う。だから愁には感謝してます。本当にありがとう」
< 183 / 346 >

この作品をシェア

pagetop