私が一番近かったのに…
お礼など求めていない。私はただ、自分のしたいようにしただけだ。

「気にしないで。大丈夫だよ。それよりも、愁こそ大丈夫?」

ずっと気になっていた。あの後、どんな話をしたのか。
彼女と別れることはなさそうだけど、お店には来ないように、上手く説得できたのだろうか。

「なんとかな…。なかなか折れてくれなくて、焦った」

愁の彼女とは、直接話したことはないが、頑固で人の話を聞かなそうなイメージがある。

「愁もお疲れ様。気にせずゆっくり休んでね?」

同僚も同情してか、誰も愁のことを責めなかった。あの状況を見たら、何も言えないのは当然だ。寧ろあんな彼女と付き合っていて、可哀想と哀れむ視線ばかりであった。

「お言葉に甘えて、そうさせてもらうな」

私の頭をポンポンしてくれた。愁の手は優しい。この手に触れられてしまえば、もう何も考えられない。

「待っててな。…それじゃ、また後で」

私の元を去ると、皆へお礼と謝罪参りをしていた。暫く私はその光景を眺めていた。皆、「いいよ、大丈夫だから」と、愁を慰めてくれた。
その度に愁は、申し訳なさそうにしていた。彼女の尻拭いをし、代わりに平謝りをする。そんな姿を見ていたら、愁を慰めたい気持ちになった。私を傍においてくれたらいいのに…と、より強くそう願った。

「お待たせ。ようやく落ち着いた…」

やっと皆に謝り終えた安心からか、戻ってきた時よりも、安心した表情をしている。
同時に、ひたすら謝り続けていたこともあり、疲弊した顔もしている。

「お疲れ様」

「本当に疲れた…。働くよりも労力を使った」

必要以上に労力を使ったのだから、疲れていて当然だ。
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