私が一番近かったのに…
この流れは絶対に、私が納得するまで折れないパターンだ。
つまり、私には最初から拒否権がないということだ。
どうして、愁は私に手料理をお願いしたのだろうか。彼女と喧嘩したばかりだから、誰かに慰めてもらいたいだけなのかもしれない。
だとしても、友達に手料理を頼んだりするだろうか。普通は友達に手料理を頼んだりはしない。

「分かったよ。作ってあげる。でも、冷凍食品も入れるけど、それでいいよね?」

これ以上、選択肢は与えない。できるだけ自分で作れるものは作って、手を抜くところは手を抜く。
少しは愁にも妥協してほしい。私も妥協したのだから。

「それはもちろん、オッケーだよ。俺の勝手な我儘に付き合ってもらってるんだから、それだけでも感謝してる。俺の我儘なお願いを受け入れてくれて、本当にありがとう」

私が手料理を作るというだけで、愁はとても嬉しそうにしていた。
そんな嬉しそうな姿を見せられてしまったら、私も釣られて嬉しくなってしまいそうだ。

「どんな料理を作ってくれるのか、今から楽しみだ」

その期待は余計にプレッシャーを与えるので、そんなに期待しないで…と、心の中で小さく願った。

「あまり期待しないでね?本当に上手く作れないからさ」

私は明日、差し入れに何を作ろうかと、頭の中はそのことでいっぱいだ。
その前に本当に作れるかどうか、不安で仕方がなかった。

「俺は誰が作ったかが大事だから、無責任かもしれないけど、幸奈が作ったものなら、何でも美味しいと思う」

一体、愁は私にどんな幻想を抱いているのだろうか。謙遜していると勘違いしているのかもしれない。
もしくは、たとえどんなに下手でも、広い心で受け止められるという、彼なりの優しさをアピールしているのかもしれない。
今の私には、そんな優しさがあるのならば、私に料理を作らせることを諦めるか、時間を設けてくれと心の中で密かに願った。
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