私が一番近かったのに…
「それで、私は明日、どこで差し入れを渡せばいいの?」

問題は渡し方である。昨日の今日ということもあり、さすがに皆の前で渡すことはできない。彼女がいる人に私が手作りお弁当を渡すなんて、どう考えても不自然だからである。
それと同時に、この遠回しなお断りに、そろそろ気づいてほしい。私にはまだ手料理は早い。ハードルが高すぎる。

「それなら、俺がタイミングを見計らって、休憩時間に連絡するから、その時に持ってきてくれないか?」

あくまで自分が基準であり、私のことは一切、考えてはくれていなかった。
そして、私の意図にも全く気づいてもらえなかった。

「愁、やっぱり作らないとダメ?」

もういい!この際、直球勝負だ。私にだって気持ちがある。やれることとやれないことがあって、今まさにやれないことに直面している。
さすがに料理だけは無理だ。料理以外でのお願いなら、愁のして欲しいことを何でもしてあげるから、今回だけは許して……。

「当然だろう。ダメだ。俺は幸奈にお願いしているんだ。幸奈じゃなければ意味がない」

この男…。絶対に自分の意思を曲げようとはしない。
もう…どうすんのよ。この際、副店長と中山くんは置いといて、他の人達の視線が怖い。
私にだって、立場がある。間違いなく私は、彼女がいる人に堂々とアプローチをしている女に映るに違いない。
そして万が一にでも、愁の彼女にこの事が耳に入ってしまえば、私はより疑いをかけられるであろう。
愁は何がしたいのだろうか。彼女と喧嘩中とはいえ、私はセフレである。彼女に私達の関係がバレても構わないということなのだろうか。
やっぱり、愁の考えていることがよく分からない。こんなの彼女への当てつけにすぎない。

「私だから…ね。分かった。今回は仕方ないから、折れてあげるけども、半分以上は冷凍食品だからね。
手作りは、これから練習して上手くなってからでもいい?今回はやれる範囲内で頑張るから」

冷凍食品が手作り弁当と言えるかは謎だが、私なりの配慮である。
この際、お弁当という体であれば問題ないと、開き直ることにした。
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