私が一番近かったのに…
「分かんねー。ただ、今はお前と一緒に居たい気分なんだよ」

腕を突き放されてしまった。まずい。怒らせちゃったかもしれない。
そう思った次の瞬間、抱き寄せられた。夜道で暗いとはいえども、ここは道端だ。誰かに見られやしないか、ヒヤヒヤした。

「幸奈がいけないんだ。いつだって俺を惑わすから」

「私のせいなの?」

「うん。お前のせい。だって俺が弱ってる時に、必ずいつも助けてくれるから。
それにさっき腕を組んだ時、思いっきり胸が当たってた」

気づいてたんだ。何も指摘してこないので、ってきり気づいていないものだとばかり思っていた。

「ごめんね。そんなつもりじゃなかったの」

「お前が謝る必要はねーよ。俺としてはその、すげーよかったから」

「え?よかったの?」

よかった…ってことは、喜んでるってことでいいんだよね?

「お前さ、自分が良い胸してるってこと忘れんなよ。俺、もう我慢できねー…」

服の上から当たっただけなのに、意識してくれてる。
単純かもしれない。それだけで少し元気になれた。
好きな人の言葉一つで左右されて、元気になったり、暗くなったり。
上手く誤魔化されているのは分かってる。はぐらかされたって、私は傷つかない。
いいんだ。胸だけでも意識されてるという事実が、今の私には嬉しかった。

「今日もするの?」

「うん。したい」

「もしかして、最初からそのつもりだったの?」

「んなわけねーだろ。最初はただ傍に居てほしかっただけだ」

愁が最初からしないつもりでいるのは、珍しいことかもしれない。
ここ最近では特に珍しく、傍に居てほしいなんて甘えてくること自体、相当弱っている証拠だ。
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