かつて女の子だった人たちへ
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日唐エナジー株式会社は石油元売会社の上場企業で千代田区の外堀通りにある。神田と大手町の中間に位置した巨大なオフィスビルは真新しく近代的。
外商部の仁藤弓(にとうゆみ)は朝のミーティングの後、ひとつ下の階に向かった。用事ついでに、マーケティングリサーチ部にいる同期の松田敬士(まつだたかし)に会うためだ。
ふっくらとした身体付きの弓は、ベージュのスーツにヒールの低いパンプスをはいている。髪の毛は昔から肩までで、ハーフアップにするかひとつに結ぶか。
「松田くん」
用事をすませた弓は敬士の席に歩み寄る。厚みのある白い手をお腹のところで組み、弓は遠慮がちに尋ねた。
「今夜の件、大丈夫かな?」
「仁藤さん、お疲れ! もちろんだよ。楽しみにしてるね」
敬士は席に座ったまま、弓を見上げ明るく笑った。太陽のように朗らかな笑顔に、弓もつられるように微笑んだ。


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