ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「おめぇ、奴の弱みを探って来い」
「ひええ?」
驚きすぎて、変な声が出た。
「で、できませんって! そんなの!」
「やるんだよ」
紗季が低い声で言い放つ。まるで極道。
「で、でも……それなら貴衣さんのほうが適任じゃないですか? コカブで酔わせて聞き出すとか……」
「ダメだ。すぐ航太にチクられる」
「じゃあ、菜々緒さん! あの人、人の弱み握るの得意だし……」
「バカか! 逆にこっちが握られるわ。あの冷めた目で、半笑いされてみろ」
秋葉が身震いした。想像したらしい。
ダメかあ……。
天を仰ぎながら、大和は頭の中で残りのスタッフたちをスライドショーのように思い浮かべた。
「いっそ本多さんに──」と言いかけたところで、紗季が口を開いた。
「大和、お前はいい奴だ。あの菜々緒でさえ、お前に惚れてる」
「え? ええー! やめてくださいよー」
大和は、乙女のように顔を赤らめた。
菜々緒は好きだ。最近では、彼女に冷たく罵倒されるのが快感にさえなってきた。
「あのミジンコを見るような目に耐えられるのは、おめぇぐらいなもんだぜ」
「そうですかねぇ、へへっ」
満更でもなさそうに頭をかく大和に、三人は完全に引いている。
「お、おめぇなら、相手も油断して弱みを見せる。そうだったな? 純平」
秋葉さんのおっしゃる通りでございますと、純平が大きく頷く。
純平が言うのなら、そうなのかなと、大和は気を大きくする。
「よ、弱みを聞き出して……、どうするんですか?」
「安心しろ。お前は食材を用意するだけだ。料理はあたしらがきっちりやるさ」
「おう、任せろ。煮ても焼いても喰えねぇ野郎だが、こっちとら料理人だ。最高のディナーにしてやるぜ」
秋葉は、目を輝かせて手のひらを拳で打つ。
紗季は、親指で自分の首を切る真似をする。
まさか、蒸したり、揚げたりするつもり? 血を見るのは勘弁してほしい。
大和の勇気は一気に冷めた。
「やっぱり、ちょっと──」
「頼んだぜ、しっかりやれよ」
……拒否権は、ないらしい。
「勘弁してくれ」と心の中で呟きながら、大和は純平に助けを求めて視線を送る。
純平は、唇をきゅっと結び、目を泳がせながら視線をそらした。
「……わかりました。がんばります」
渋々承諾する大和に、
「あ、その前に、スモモ収穫して来いよ」
どんなときでも、人使いが荒い紗季だった。