ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「連絡先くらい、言付けてくれればよかったのに」
「私たち、お互いに干渉し合わない関係だったでしょう?」
「干渉しないんじゃなくて、相手の生活を尊重し合っていたんだ」
「どちらでも同じことよ。私はあなたを知らないし、あなたも私を知らない」
「君が何も訊かないから。でも、僕は知っている。君がご両親を亡くしたことも、大失恋したことも」
多恵は背を向けたまま、体を起こした。
「そんなの、司が勝手に喋ったことじゃない。酒の席での与太話なんて、くだらない」
玲丞は追うように上体を起こして、躍起になって言った。
「仕事一筋で野心家だけど、朝は炊きたてのご飯と、出汁から取った味噌汁、それに僕の好きな甘い厚焼き卵をつくってくれる家庭的な人だってことも。お母さんの葬式以来、涙を流したことなどないって言うけど、はながベランダでハンティングした小鳥を、泣きながら埋めてやっていたことも」
「やめて」
「負けず嫌いで、ああ言えばこう言う天の邪鬼だけど、すぐに反省してしまう、根は素直な人だということも。毅然として常に人との距離を保とうとするけれど、本当は夕間暮れが苦手な寂しがり屋だってことも──」
「わかった! わかったから、もうやめて」
「僕を愛していることも」
多恵はハッと黙した。
「愛していなかった?」
「……」
多恵は無言で、床に散らばった衣服をかき集めた。
「多恵……?」
玲丞の哀しげな声は、返し矢となって、多恵の良心を貫いた。
より残酷に突き放すために彼に抱かれ、憎体口をついて傷つけることで、後戻りできないところへ自分を追い込もうとした。
けれど、体を合わせたことで、彼への愛を再認識してしまうとは、誤算だった。
それでも、今は、続けるしかない。
──思い出せ、彼はカオルの男だ。
「そんな昔のことは忘れたわ」
多恵は淡々と服を身につけながら、素っ気なく言った。
「もう、用は済んだでしょう? 帰って」
「……僕は、君を抱くために来たんじゃない」
多恵は薄く嗤って、できる限り冷淡に、最後の仕上げにかかった。
「今、この状況で、どう言い訳するの?」