ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

4 『あのくらい逞しければ、ちゃんと現実を受け入れられるわよ』

大和はビビっていた。
ただ純平に頼まれてついてきただけなのに、厨房の裏で待ち構えていたのは──。

……あれ、増えてる。

うんこ座りの秋葉。壁にもたれて腕を組む紗季。通用口前の階段に頬杖をついて座る貴衣。──圧がすごい。
クセの強い三人が、まるで取り調べのように一斉に視線を向けてきた。

「おう、来たか」

秋葉の低い声に背筋がゾッとなる。大和は思わず純平の影に隠れるように体を寄せた。

「もっと寄れよ」

「え? でも……」

近づくのは危険だ。

「そんなに距離あったら、話になんねぇだろ」

「……はい」

大和は渋々と、秋葉の隣に体育座りした。

「それで? 守備はどうなんだよ」

「えーっと、まだ……その、タイミングがなくて……」

バシッ。やっぱり頭をはたかれた。大和は「いてて……」と頭を抱えた。

「そうだろうと思ったぜ。でもよ、代わりに――貴衣が、いいネタを拾ってきてくれた」

だから最初から彼女に頼めばよかったのにと、大和は口をモゴモゴさせた。でも、おかげでお役御免だ。

貴衣は口元だけで微笑みながら言う。

「昨夜、フェルカドで一悶着あったって聞いてね。──大きな声じゃ言えないけど、あの藤崎様ってさ……」

後から加わった二人が、ごくりと喉を鳴らした。

「実はGMの元カレじゃないかって、菜々緒ちゃんが」

「……は?」

二人は見事に揃ってきょとんとする。

「キョトンとすんな!」

紗季の平手が、大和の後頭部を叩く。デジャヴだ。

「で、今のカノジョ──っていうか、オネエのあの人がヤキモチ妬いて、GMにちょっかいかけてるんだと思う」

「GMは……どう思ってるんでしょうね?」

珍しく純平が口を挟んだ。

「そりゃ、一度は惚れあった仲だ。悪い気はしないだろうぜ」

貴衣が声をあげて笑った。その短い笑いは渇いていて、少しだけ軽蔑を含んでいた。

「別れた女が今でも自分を好きだって、勘違いする男って、いるよねぇ〜。残念! 女はね、昔の恋なんて引きずらないものよ」

「そういうもんなのか?」

秋葉の疑問に、大和は無意識に首を傾けた。
思い出すのは、別れた彼女が翌日に他の男と腕を組んで歩いていた、あの光景。

「いや、僕には……わかりません」

「ま、どっちにしろGMにとっちゃ災難だよな。最近、明らかに元気ないし」

「それは、別の件で……」

そう口にしてから、純平はしまったとばかりに口を塞いだ。

「……別の件?」

秋葉がじろりと目を細める。

「なんだよ、純平。なんか隠してんじゃねーのか?」

そのとき、冷気と共に厨房のドアが開いた。

「お前たち、何をしてる」

全員がピクリと体を硬くした。
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