ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
雷鳴が響いた。

生温かい風が木々を大きく揺らしたかと思ったら、真っ黒な雲が突如海上に掻き現れて、鉛色の海面がうねりを上げる。やがて地鳴りのような轟きとともに、目も眩む青い稲妻が走り、怒濤のような繁吹き雨を連れてきた。

本多は不安な目を階上へ向けた。

雨と共に帰館したカオルは、濡れた服で301号室へ向かったまま出てこない。なかではどんな三者会談が行われているのか。

一方の201号室では、もうかれこれ二時間以上も多恵が吊し上げられている。

ホテルかカンナビか、いずれにせよ従業員の身の振り方を考えなければならないと、多恵から内々に相談されたのは今朝のことなのに、いったいどこで嗅ぎつけてきたのだろう。

それに、自然保護活動にコミットした覚えのない多恵に向かって「裏切り者」とは、カルト教団でもあるまいし、市民活動家とはげに恐ろしい。

谷垣先生と須藤は、嵐のスペクタルショーに心躍らせながら、コカブのカウンターでのんきに酒を酌み交わしている。

薄情な男たちには任せられないと、ご婦人方はロビーラウンジで評議の真最中だ。
しばしばエコとロハスの違いやシーシェパード批判に脱線するので、多恵を難儀から救い出す手だては当分出そうにない。

フェルカドのスタッフたちはディナーの準備にエンジン全開で、同じく何も知らない航太は仮眠室で高いびきを上げている。

弱り目に祟り目で、こんな時に限ってアクシデントが続く。
そのときズドンと地響きがして、館内がいっせいに暗くなった。
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