ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「事情は理解した」
落ち着いた口調で、伊佐山が言う。
さわさわと、赤いコックタイが風に揺れる姿も、神々しい。
直立姿勢の秋葉と紗季と純平。その隣で、大和はオドオドと立ち尽くす。いつの間にか、貴衣の姿は消えていた。
「三浦くん」
「は、はいっ!」
「うちのスタッフが、迷惑をかけたね。私からも謝るよ」
「はい、あ、いえっ」
「どっちだ!」
「秋葉」
「すみません。でも、グランシェフが謝る必要なんてないです。だって、こいつ全然役に立ってませんし」
「黙りなさい」
「ウィ、シェフ」
伊佐山は淡々と続ける。
「姫様のためを思っての行動だというのはわかる。しかし相手は客人だ。姫様にとって逆効果になりうるとは、考えなかったのか?」
「……すみません。ほら、純平も、大和も、謝れ」
「すいませんでしたっ!」
声を揃え頭を下げる二人に、伊佐山はふっと微笑んだ。
「いや、三浦くんはいいんだ。三浦くんは」
「ほら、紗季も」
秋葉が肘でこつく。紗季はプイッと横を向いた。
「やだ」
「おいぃ」と、秋葉はこっそり囁いた。
「グランシェフを怒らすなって……」
紗季は臆すことなく言う。
「だって、あたし、悪いことしたと思ってないし。こんな半端もんのあたしたちを、信じて使ってくれるユキさん──」
慌てて言い換える。
「──GMを、あたしたちが守らなくて、どうするんだよ。グランシェフだって、あのいけすかないオカマ野郎、殴りかけてたじゃん」
「おめぇ、それ今言うなよ……」
秋葉がほとほと困った声を出す。
伊佐山は一瞬目を泳がせて、パンっと手を打った。
「くだらないことに時間使う暇があったら、持ち場に戻れ。仕事しなさい、仕事!」
「ウィ、シェフ!」
なぜか、大和まで一緒になって声を上げる。
「よし」とうなずき、一歩、歩きかけた伊佐山が、足を止めた。
ちら、と後ろを振り返る。
氷のような眼差しが、大和たちを射抜いた。
「……それで──弱みは、掴めたのかね?」