ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
虚を突かれて、玲丞は一瞬言葉を失った。
「どうして、その名前を……?」
多恵は顔を振り向けてふふっと笑うと、そのまま鉄棒がぐにゃりと曲がるように熱い頬をテーブルに置いた。
「幼馴染だったんですってね。彼から聞いたわ。あのひと、本当にお節介なんだから。男のお喋りは嫌われるって、一度注意してあげた方がいいわよ。──ああ、まあ、オネェだけど……」
それからまたしばらく沈黙していたが、突然、投げやりに、真北の空を指差した。
「ポラリスはあれよ。あなたが逢いたいひとはあそこにいるわ」
「もういいんだよ、多恵。僕が逢いたかったのは君なんだから」
「可哀想に、そうやってみんな記憶のなかに埋没して行くのね……。でも仕方がないわね。ポラリスは動かないけど、生きている人間の時計は動き続けているんだもの。きっと、麻里奈さんもあなたの幸せを歓んでいるわ。だからね、あんな可愛いひと、泣かせちゃダメよ」
「可愛いひと?」
「奥さん。若くて清純で淑やかで、こんなところまで追いかけてくるほどあなたを愛してる」
「だから、違うって!」
「もうどうでもいい。真実なんて、何の役にも立たない。僕は今、幸せに暮らしているって、そう言ってよ。もう、私を惑わさないで」
どうやったらそちらに思考が飛ぶのか、わざとふたりの関係を歪めているとしか思えない。
玲丞は渇いた喉に唾を飲み込んだ。そして、多恵の背中にそっと手を置き、言った。
「多恵、聞いて、僕は──」
反応のなさにふと顔を覗き込んで、玲丞はしまったと項垂れた。多恵はすでに眠りに落ちていた。
「どうして、その名前を……?」
多恵は顔を振り向けてふふっと笑うと、そのまま鉄棒がぐにゃりと曲がるように熱い頬をテーブルに置いた。
「幼馴染だったんですってね。彼から聞いたわ。あのひと、本当にお節介なんだから。男のお喋りは嫌われるって、一度注意してあげた方がいいわよ。──ああ、まあ、オネェだけど……」
それからまたしばらく沈黙していたが、突然、投げやりに、真北の空を指差した。
「ポラリスはあれよ。あなたが逢いたいひとはあそこにいるわ」
「もういいんだよ、多恵。僕が逢いたかったのは君なんだから」
「可哀想に、そうやってみんな記憶のなかに埋没して行くのね……。でも仕方がないわね。ポラリスは動かないけど、生きている人間の時計は動き続けているんだもの。きっと、麻里奈さんもあなたの幸せを歓んでいるわ。だからね、あんな可愛いひと、泣かせちゃダメよ」
「可愛いひと?」
「奥さん。若くて清純で淑やかで、こんなところまで追いかけてくるほどあなたを愛してる」
「だから、違うって!」
「もうどうでもいい。真実なんて、何の役にも立たない。僕は今、幸せに暮らしているって、そう言ってよ。もう、私を惑わさないで」
どうやったらそちらに思考が飛ぶのか、わざとふたりの関係を歪めているとしか思えない。
玲丞は渇いた喉に唾を飲み込んだ。そして、多恵の背中にそっと手を置き、言った。
「多恵、聞いて、僕は──」
反応のなさにふと顔を覗き込んで、玲丞はしまったと項垂れた。多恵はすでに眠りに落ちていた。