ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「幸村さん! 出てらっしゃい!」
ヒステリックな声が館内に谺する。
「お静かに、どうぞお静かに。三浦君、そちらの方をお引き留めして」
テンパった大和では、突破されるのが目に見えている。
「出てこい」のシュプレヒコールに気圧されて、菜々緒が慌ててプライベートルームへ駆け込むのを見て、本多は「待ちなさい」と声を上げたが、彼女の耳には届かなかった。
「そこか」とばかりに、狐目が光った。
狭いカウンターの入口で押し合いへし合い、凶暴な雌猫の爪に無防備な手や顔を引っかかれて、もう持ちこたえられないと本多が諦めかけた──そのとき。
「お待たせいたしました」
ドアが開き、現れたその姿に、おおっと声が上がった。
天の岩戸から天照大神がお出でになられたかの如く、尊い日輪がいや差した。今までの気焔を忘れ、誰もが息を呑んでいる。これぞ、幸村当主の威厳だ。
多恵は一同をさらりと見渡すと、赤い汗をかいた本多に向かって言った。
「201号室が空いていますね? キーを」
本多は手にした鍵を渡しながら、耳打ちした。
「私も同席いたします」
「いいえ、これは私個人の問題ですから、本多さんは業務に専念してください。その前に傷の手当てを」
「しかし──」
「それから、航太を起こす必要はありません」
先読みされて、ならば意地でも同行しようとする本多の腕を、谷垣が掴んで首を振った。
「どうぞこちらへ。お話をお伺いいたします」