ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
多恵は、黒川の背後の赤糸威大鎧に目を注いだ。

幸村家家宝がよりによって彼の手に落ちていたとは、御祖(みおや)もさぞ嘆いていることだろう。ここも元はと言えば、刀を捨て廻船業から豪商となった幸村の商家が建っていた土地だ。

「どうか、もう一度、ご検討いただけますよう、お口添えを、お願いいたします」

多恵はぐっと上体を倒した。白いワンピースの胸元から、乳房がこぼれ落ちそうになることを十二分に意識して。

「姫様にそこまで仰られたら、私も微力ながら何とかして差し上げねばならんでしょう。しかし他の役員連中を説得するとなると、それなりの担保をいただかねば……。さて、いかがしたものか……」


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多恵は嘔吐しそうな屈辱感に、両腕を抱いて戦慄いた。

ねちこい口調、好色に側めた視線、清々しいほど俗念剥き出しの男が、何を望んでいるのかはわかっている。
それを承知で、こんなあからさまに男のスケベ心を煽るような服を着て媚びを売るなど、堪らなく情けない。

しかし背に腹は代えられない。人事を尽くした金策が不首尾に終わった今、このままではポラリスの存続は絶望的なのだ。

多恵は、落ち込む気持ちを追い払うように、鈴を張ったような黒目がち目をキッと上げた。

瑠璃色のシャツとアイボリーのスカートに着替え、黒髪を乱れなく纏め上げる。インカムのイヤホンを装着し、ネームタグを付ける。

そうして最後に大きく深呼吸をすると、彼女は見事にゼネラルマネージャの顔へと変身した。
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