ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

ホテル・ポラリスは春を待たずに閉館する。

秋の訪れとともに静枝がみまかり、多恵は航太に相続放棄(この場合は負債過多だけれど)させ、自らポラリスの代表取締役に就任した。
弟の将来を守ることが、多恵が静枝にできる、最初で最後の親孝行だったから。

こうなることを待っていたかのように、トーエー傘下の債権回収会社による、執拗な取り立てが始まった。

従業員たちは一致団結して、リベンジを誓った。

あからさまな妨害行為もあったけど、暴力団員風の客からの嫌がらせに、秋葉は驚異的な忍耐力で耐えた。クレーマーのしつこい言いがかりに、紗季も唇を噛んで謝罪した。早坂をリーダーに、警邏隊も結成された。

市場関係に怪文書が回ったけれど、そこは幸村一族の力が強い。
山岡も息子の説得に耳を貸さず、ますます元気に野菜を納めてくれた。
農道が今さらながらの水道管工事で通行止めにされたときは、村長自らトラクターを駆って、臨時道を整備してくれた。

最も用心したカンナビは、ダンプが突っ込んだり、花火を投げ入れられたりと、いくども危険に晒された。

警邏隊では後手にまわり、神経をすり減らすばかりの毎日。そんな多恵たちの助っ人となったのは、怖いもの知らずのNPOの狐目たちだ。

許可なくライブカメラを設置して監視していたようで、森の入り口に不審者発見とみるや飛んできて、例のシュプレヒコールで追い返してくれた。
権力に逆らえず言いなすばかりの警察より、よっぽど頼みになった。

インターネット上に謂れのない誹謗・中傷が書き込まれたときには、谷垣が強引な開発事業への風刺を新聞に掲載してくれたし、牧村や笙子もSNSで擁護してくれた。

多恵は、トーエーの包囲網を掻い潜り、残った資産の売却先を画策し、並行して民事訴訟の準備もした。

それなのに、闘うことをやめたのは、多恵だ。
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