ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
「あなたがときおりぼんやりと私を見つめるたびに、私は胸が切り刻まれそうだった。あなたの目が捕らえているのが本当は誰なのか知るのが怖くて」

涙が一粒落ちたのを悟られまいと、多恵は顔を背けた。

「あなたは私が訊かなかったと言うけれど、訊かないのじゃなくて、訊けなかったのよ。女なんて好奇心と独占欲の塊なの。好きなひとのことなら本当はどんな些細なことでも知りたくてしかたがない。そこに少しでも疑惑があれば、疑う心が増殖して、徹底的に追求しなければ気が済まなくなる。業の深い生き物なのよ。だから、一度訊いてしまったら、あなたの古傷を抉るようなことでも、確かめずにはいられなくなるでしょう? あんな写真を見てしまったら、どうしようもないのよ」

「写真?」

と声にして、思い当たったように玲丞の唇は開いたまま凍りついた。

「あなたのなかに麻里奈さんは生きている。私の父も同じだった。あなたを好きになればなるほど、彼女の影は大きくなって、私を苛むのよ。亡霊に嫉妬することほどやり切れないものはなかったわ」

重い沈黙が続いた。

懊悩する玲丞に、多恵は自分の唇を呪った。
これは言葉の折檻だ。彼が反論できないことがわかっていて、責めている。

突然込み上げてきた胸の悪さに、多恵は逃げ場を求めて背を向けた。

「待って、まだ話が──」

「もう何も訊きたくない。言ったでしょう? 真実なんて何の役にも立たないって。もう、私に構わないで」

背中越しに言って、多恵はすべての未練を断つように後ろ手に扉を閉めた。
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