ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「ペテン師!」
多恵は呪うように言い放った。
言葉もなく項垂れる襟元に、弁護士バッジが小面憎く輝いている。
「誤解だよ、多恵」
「多恵ですって?」
ロン毛の援護射撃は、火に油を注ぐだけだった。
この軽佻な男に旗を巻かなければならなかったのが悔やまれる。多恵は爪が食い込むほど拳を握りしめた。
「彼があなたに逢いに行ったことと、今回の件とは、無関係です」
多恵は、冷ややかな笑みを浮かべて背を向けた。詭弁など聞きたくもない。
「待てって!」
ドアノブに手をかけた多恵の肩に、怒気と苛立ちがふつふつと立ち上る。
それでも、静かな声で、振り返ることなく言った。
「まだ何かご用ですか、藤崎社長? それとも、カオルさんとお呼びした方がよろしいかしら?」
「だからぁ、それは謝るよぉ」
こんな場面で甘え声を出せるなんて、KYな奴。
天然ゆえ、相手の気持ちをさらにささくれ立たせていると認識していないから、たちが悪い。
しかし、よくも化けたものだ。
妨害行為の抗議に乗り込んだ席で、面と向かっても、親しげに笑いかける相手に気味悪さを感じただけ。
〈藤崎倫太郎〉と記された名刺と、聞き覚えのあるアルトボイスを耳にして、ようやく仕掛けに気づいて唖然とした。
スーツ姿でも色白の優男だけれど、化粧の巧さやおネエ言葉の無理のなさを考え合わせると、実際、女装趣味はあるのだろう。
「今日は本人のたっての希望で同席させたけど、玲はこの案件には一切関わっていない。こいつは、危機管理や不祥事対応が専門分野で、三年前からは会長の事件にかかり切りだったんだ。覚えてるかな? 財務省の官庁保養施設をめぐる決裁文書改ざん疑惑。国会で大騒ぎしてたやつ」
ふーんと、多恵は過去のニュースを思い起こした。
隣市で起きたスキャンダルで、連日ワイドショーで取り上げられていたから、よく覚えている。
あの参考人招致で映っていたのは、倫太郎の父親か。悪党面の割にはクレバーな答弁だと思ったけど、あれも玲丞の草案だったのか。
多恵は呪うように言い放った。
言葉もなく項垂れる襟元に、弁護士バッジが小面憎く輝いている。
「誤解だよ、多恵」
「多恵ですって?」
ロン毛の援護射撃は、火に油を注ぐだけだった。
この軽佻な男に旗を巻かなければならなかったのが悔やまれる。多恵は爪が食い込むほど拳を握りしめた。
「彼があなたに逢いに行ったことと、今回の件とは、無関係です」
多恵は、冷ややかな笑みを浮かべて背を向けた。詭弁など聞きたくもない。
「待てって!」
ドアノブに手をかけた多恵の肩に、怒気と苛立ちがふつふつと立ち上る。
それでも、静かな声で、振り返ることなく言った。
「まだ何かご用ですか、藤崎社長? それとも、カオルさんとお呼びした方がよろしいかしら?」
「だからぁ、それは謝るよぉ」
こんな場面で甘え声を出せるなんて、KYな奴。
天然ゆえ、相手の気持ちをさらにささくれ立たせていると認識していないから、たちが悪い。
しかし、よくも化けたものだ。
妨害行為の抗議に乗り込んだ席で、面と向かっても、親しげに笑いかける相手に気味悪さを感じただけ。
〈藤崎倫太郎〉と記された名刺と、聞き覚えのあるアルトボイスを耳にして、ようやく仕掛けに気づいて唖然とした。
スーツ姿でも色白の優男だけれど、化粧の巧さやおネエ言葉の無理のなさを考え合わせると、実際、女装趣味はあるのだろう。
「今日は本人のたっての希望で同席させたけど、玲はこの案件には一切関わっていない。こいつは、危機管理や不祥事対応が専門分野で、三年前からは会長の事件にかかり切りだったんだ。覚えてるかな? 財務省の官庁保養施設をめぐる決裁文書改ざん疑惑。国会で大騒ぎしてたやつ」
ふーんと、多恵は過去のニュースを思い起こした。
隣市で起きたスキャンダルで、連日ワイドショーで取り上げられていたから、よく覚えている。
あの参考人招致で映っていたのは、倫太郎の父親か。悪党面の割にはクレバーな答弁だと思ったけど、あれも玲丞の草案だったのか。