ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「伯母様も、長男の嫁に見切りをつけて、次男に希望を託してたってこと? そりゃあ、センセイの後継者は、破天荒な兄貴より真面目で出来の良い弟だって、昔からみんな言ってたけど、伯母様だけは長子継承派だったじゃない?」
その部分は間違っている。
玲丞は両親の望み通り法曹家になった。けれど、父も母も玲丞に政界を期待したことはない。
順法精神と利権、その矛盾を看過できる図太さが玲丞に欠けていることを、母は見通していた。そして、家族でさえ寝耳に水のような形で入籍した慶丞こそ、カリスマ性という政治家の資質があることを、父は昔から感じ取っていた。
「やっぱ女優と結婚したのがまずかったのかなぁ? 彼女、個性派だし生じっかうまいし。──前に伯母様が、詐欺師の方とはお会いしたくないってゴネたときには笑ったよね。そういう役だっちゅうの。さすが公家の血を引くおひいさま、和むわ〜。うちのサイコパスババアに爪の垢でも煎じて呑ませてやりたい」
茶飲み話にひとり花を咲かせていた倫太郎は、体を縮めてテーブルにやってきたギャルソンの姿に、はたと本来の目的を思い出した。
「あの、次のお料理をお持ちしても──」
「バカね、キャンセルに決まってるでしょ。キャ・ン・セ・ル!」
言いながら、急かすように立ち上がり、
「こんなところでのんびりしてる場合じゃなかった。ほら、早く!」
玲丞は困惑するギャルソンに言った。
「続けてください」
「行かないつもり? 信じられない。タカさんをそそのかして、ポラリスを再開させたのはあんたじゃない。感謝は態度で示しなさいよ」
目を尖らせる倫太郎を疎むように、玲丞は窓へ顔を向けた。
倫太郎はしょうがないなと再び腰を下ろし、顔を覗き込んで言う。
「今夜こそ、絶対に来るよ」
玲丞の瞳に動揺が走った。見逃さなかった倫太郎は、畳み掛けた。
「ボストンにいるって話だけど、あれだけの準備を素人にできるわけがない。どう考えたって多恵が一枚絡んでるって。だから、行こうよ。そんで、タカさんからうまいこと言ってもらってさ。きっと、これまでの玲の尽力を知ったら、感激するよ? 鬼の目にも涙だったりして」
ハッハッハッと、空笑いする倫太郎に、玲丞は心の中で答えた。
──多恵はすべて知ってる。だからフェルカドには一度も現れなかった。赦す気はないと伝えるために。