ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「そういや、夏目君、君、結婚するんだって?」
「……まぁ、はい」
夏目が、ちらりと多恵を見た。
何でここで気を使うかなと、多恵は気づかぬふりをした。
「よし、人生の先輩として、ありがたいアドバイスを授けよう」
センセイの顔が、真剣な〝先輩面〞になる。
「結婚したらな、最初が肝心だ。嫁が可愛いからって、家事の分担なんか引き受けたものなら……あっという間につけあがる!」
夏目、軽く苦笑。
多恵、無言でグラスを回す。
「女ってのはな、調子に乗るとすぐ支配者になるんだよ。そうして、我ら虐げられし男たちの会に、またひとり、仲間が増えるってわけさ!」
遊び人のくせに恐妻家で有名なセンセイだった。
「ありがとうございます。胆に銘じます」
愛華が「あ〜ん」と差し出したフルーツに、辰見が「アーン」と大口を開ける。
多恵は問われる前に答えを用意した。
「それで、ユキちゃんは?」
──そら来た。
この質問は聞き飽きた。何度問われようと答えは同じなのに、みなよく飽きないものだ。
「残念ながら、ご縁がありません」
いつものテンプレ回答。
なのに、センセイは腕を組んで、真剣な顔をする。
「仕事熱心なのはいいが、女ってのは、長く社会に出ていると、強情で変に小賢しくなっていかん。帰国子女の君にはわからんかもしれんが──男女共同参画と声高に言ってる女の大半は、自己顕示欲だけは強いのに、男からはまぁったく相手にされていないという連中でな──」
多恵は愛想笑いを浮かべながら、まわりに聞かれていないかとチェックした。
SNSに流されたら、大炎上必至の暴言だ。
「やっぱり女の幸せは、子どもを産んで育てることだと思うよ。ユキちゃんも、もういい歳なんだから、手遅れになる前に将来を考えなさい」
いつになくセンセイが真顔なものだから、案外親身に心配してくれてるのかもしれないと考えを改めた矢先、
「愛華には、ボクが女の幸せを教えてあげるからね〜♡」
「も〜、センセ〜、奥さまいるじゃないですかぁ♡」
──アホくさ。
もったいぶってもっともらしいことを宣うけれど、センセイは軽い。