ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
「あんた、まさか彼の職業も知らないの?」
「あのひと、自分のことって喋らないもの」
互いに相手の素性を詮索しないのが、いつの間にか無言のルール。
「秘密主義なんて、ますます怪しいなぁ。絶対まっとうな仕事じゃないって」
「できる男は、みだりやたらに自分を語ったりしないものなのよ。自慢話の多い男ほど、大した人生送ってない」
司が庇ったものだから、理玖は面白くなさそうに唇を尖らせた。
「え〜、でも、何をしてるかくらいは、ふつう言うっしょ。カノジョなんだから」
「カノジョじゃない」
「そうだ、司さん、名刺は?」
「いただいてない。いつもニコニコ現金払いだし、一度いただこうとしたら、切らしてるからって。それに、ユキのカレシだしね」
「だからカレシじゃないって」
「怪しい! ユキさん、カモだとか思われてンじゃないっすか? 都心の分譲マンションに女の独り住まいなんて、相当溜め込んでるって考えたんですよ。三十路の独身女が一番狙われやすいって言うから」
ギロリと二つの視線に刺されて、理玖はしゅんと首を引っ込めた。
「いずれにせよ、職業ぐらいは訊いておきなさいよ?」
「別にいいんじゃないの? お互い何も知らない方が、変に干渉し合わなくて」
「また寂しいことを言う」
「寂しいから温め合うんじゃない」
「体は温もっても、かえって心が寒くなるってこと」
「この歳になれば、誰でも孤独の一つくらい抱えてるわよ。あのひとも、きっと寂しい人なんでしょう?」
「あんた……、絶対、出会い系とかしちゃダメよ」
司があまり真剣になるから、多恵は茶化した自分が悪くなった。
「そんな暇もないから」
「そっちの方が心配するわ。ユキは立派なワーカホリックよ。オーバーヒートしてぶっ倒れる前に、一遍立ち止まって、よおっく廻りの景色を見てご覧なさい」
ボストン時代のルームメイトは、最後はいつも辛辣な説教になる。