ホテル ポラリス 彼女と彼とそのカレシ?
〈仕事一筋もたいがいにしないと、前に進むことばかりに急ぎすぎて、優しさが足りてないのよ。他人にも、自分にも〉
多恵は、会社に終身の忠誠を誓うほど義理堅くないし、同僚や部下に家族的な思い入れを感じるほど人情家でもない。
経済的にも、いくつもの貸ビルなどの不動産収入や、一族関連の株の配当金で、一人分食っていくくらい充分ある。
仕事にのめり込む理由は、世間から自分の存在を認められたいという、強い自己承認欲求のためだ。
淡泊な都会では、魂が迷子になる。どこにも自分の居場所が見つからなくて、夜の森にひとり彷徨うような心細さと寒さに、叫びたくなることがある。
そんなとき拠り所になるはずの家族を、多恵はすでに失っていた。
母を亡くし、父に新しい家族ができたその日から、多恵は常に自問していた。自分が死んでも、悲しむ者もなく、生前の記憶さえ呆気なく忘れ去られてしまうのではないかと。
過去にも未来にもつながりを持たない人間は、己の存在意義さえ見出せず、人生が不確かに思えてならないのだ。
立ち止まれば、孤独の波に呑まれてしまう。振り返れば、今まで見ないふりをしてきた過ちに足元を掬われる。高みに向かってがむしゃらに走り続けている限り、迷わずにすむ。
けれど、仕事に没頭する理由が〝自分探しの旅〞だとは、司には口が裂けても言えない。