ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?
多恵は真っ赤になった顔を上げた。彼の前で何てことを暴露してくれるのだ。

司はフォローなのか面白がっているのか、さらに赤面させるようなことを言う。

「あ、誤解しないでください。ユキは二股かけるような器用な女じゃないですから」

「よけいなこと言わないで!」

あら、失礼と、態度では表しても、目が嗤っている。

「私、ぜんっぜん後悔してませんから。結婚より仕事を選んだってだけだもの」

「仕事を選んだんじゃなく出世をとったって、はっきり言いなさい。そのエネルギーを十分の一でも私生活に向けていたら、彼の誠意にも葛藤にも気づいてあげられたのに、ユキは出世に拘りすぎなのよ」

「男を利用して商売している司に、男社会のなかで女が仕事していくしんどさなんてわかんないのよ!」

「そうやって何かというと噛みつく。結局あんたが一番、女であることを意識してるのよ。そんなに辛いなら田舎に帰って実家を手伝ったらいいじゃない」

「できるわけないじゃない!」

ドアを開けた客が驚いて引き返してしまった。

「落ち着いてユキさん。司さん、ちょっと言い過ぎ!」

多恵はやおらむんずと荷物を掴んだ。

「帰る」

「ユキ──」

派手な音を立てドアが閉まった。

気まずく顔を見合わせる三人の間を縫うように、軽快なクリスマスソングが虚しくリフレインした。
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