ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

「あんたも、そんなに厭だったら、行かなければよかったじゃない」

「だって……、祝辞も頼まれてたし……」

「あんたって……、ほんとに変なところで鈍感なんだから。そんなの、欠席してもらうための、女の嫌がらせに決まってるでしょう? 披露宴で暗い顔して祝辞を述べる方が、迷惑だと思わない?」

「……」

「後悔するくらいなら、なぜプロポーズされたときOKしなかったの。ぐたぐた返事を先延ばしにして、それでも彼、三年も待っていてくれたのに、結局、自分のアシスタントに寝取られていたなんてねぇ」

多恵は真っ赤になった顔を上げた。彼の前で、何てことを暴露してくれるのだ。

司は、フォローなのか面白がっているのか、さらに赤面させるようなことを言う。

「あ、誤解しないでください。ユキは二股かけるような器用な女じゃないですから」

「よけいなこと言わないで!」

「あら、失礼」と、態度では謝っても、目が嗤っている。

「私、ぜんっぜん後悔してませんから。結婚より仕事を選んだってだけだもの」

「仕事を選んだんじゃなく、出世をとったって、はっきり言いなさい」

豪速球で攻められて、多恵はバットを振ることもできない。

「ユキは出世に拘りすぎなのよ。そのエネルギーの十分の一でも私生活に向けていたら、彼の誠意にも葛藤にも気づいてあげられたのに」

「男を利用して商売している司に、男社会のなかで女が仕事していくしんどさなんて、わかんないのよ」

「男だから女だからって、結局あんたが一番、女であることを意識してんじゃない。そんなに辛いなら、田舎に帰って実家の手伝いをしなさい」

「できるわけないじゃない!」

テーブルを叩く音に、ちょうどドアを開けた客が、驚いて引き返してしまった。

「落ち着いて、ユキさん。司さん、ちょっと言い過ぎ!」

多恵は、やおらむんずと荷物を掴んだ。

「帰る」

「ユキ──」

派手な音を立てドアが閉まった。

気まずく顔を見合わせる三人の間を縫うように、軽快なクリスマスソングが虚しくリフレインした。
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