ホテル ポラリス  彼女と彼とそのカレシ?

「ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」

本多と揃って、深々と一礼した菜々緒は、顔を戻して「おっ」と小さく仰け反った。

「藤崎様、何かお困りでしょうか?」

「あの……、ゼネラルマネージャーの幸村(ゆきむら)多恵(たえ)さんは?」

「ゼネラルマネージャーでございますね」

隣の本多がすかさず答える。

「幸村は、あいにく外出しております」

菜々緒はほんの一瞬、訝しげな視線を横顔に投げた。

「お戻りは──」

藤崎が訊ねかけたそのとき──。

「玲! 何してんの、早くしてよ!」

と吠えながら、カオルがレセプションカウンターに戻ってきた。
目を吊り上げ、迷いなく藤崎の腕をつかみ──そのまま力ずくで引っ立てて行く。

未練に振り返った顔が気の毒で、「美人だけどいけ好かない女」と、つい今し方の教訓を忘れて、フロントマンにあるまじき感情を眉間に翻してしまう菜々緒だった。




「あの方、GMのお知り合いなんでしょうか?」

暴風のようなゲストが、おっかなびっくりの大和と共にエレベーターへ吸い込まれていくのを見届けてから、菜々緒は小声で訊ねた。

「銀行からのご紹介でしたから、違うと思います」

淡々と、レジストレーションカードのデータをパソコンに入力しながら、本多は答える。

予約が入ったのはつい三時間前。
本来ならお断りするところを、メインバンクの強い要請で、明日のホテルウエディングの非常時用に空けていた部屋を急遽回すことになった。

たしかに──
もしGMの知り合いなら、直接連絡があってもおかしくない。
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