私の彼は、一途な熱血消防士
 ロビーのベンチに並んで座る私の隣で、誠司さんがとんでもないことを口にする。そんなことをすれば、幼稚園の保護者たちから何を言われるかわかったものじゃない。

 ギョッとして、思わず私の体がのけぞってしまうのを、誠司さんが苦笑いしながら見ている。

「まあ、そうやって愛美先生の外堀を埋めて、俺から逃げられなくしたいって打算もありますけど。……妄想癖の強いやつは、全てを自分に都合よく解釈するから、それくらいやらないと愛美先生のことを諦めないかも知れない」

 前半の言葉は冗談めかしていたけれど、後半の言葉に思い当たる節がありすぎて、考えただけで夏なのに寒気が走る。

 そんな私を見て、誠司さんは左手で私の右手をそっと握った。

「だから今日は、愛美先生の家に泊まって様子を見ながら対策を考えようと思います。もちろん愛美先生の合意がなければ何もしませんから、ご安心ください」

 握られた右手が、とても頼もしく思えた。後半の言葉は、私の気持ちを尊重してくれているからこそ出た言葉だと信じたい。しばらく考えてみたけれど、それが最善策だと思えた。
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