私の彼は、一途な熱血消防士
「嘘だ! そうやって私にマウント取ってうれしいですか? 愛美先生程度の見た目でいいなんて、大塚さん、目が腐ってる」

「嘘じゃないよ、本当だよ。大森さんは自身の見た目に気を遣って、一生懸命磨いてるよね。私はそこまで自分の見た目を磨く努力はしてないし、今後もするつもりはない。私の見た目のことなんて、好きに言えばいいよ。そうやって自分では行動を起こしてるつもりでも、きちんと思いを言葉にしないと、相手だって反応に困るでしょう? 大塚さんは誠実な人だから、告白したらきちんと答えてくれる。たとえそれが、自分の求めている答えじゃなかったとしても、直接伝えていない大森さんがとやかく言うことじゃない。……自分と同じ気持ちになってくれる人間なんて、滅多に現れないんだよ」

 図星を指されて、大森さんの顔が怒りでさらに赤く染まる。

「うるさい!! あんた、何なのよっ、いちいちムカつくわね」

 大森さんはそう言うと、私の肩を思いっきり突き飛ばした。不意打ちを食らった私は、バランスを崩して後ろの棚に背中を直撃し、その拍子で大きな音を立て、衣装箱が棚から落ちてきた。それは、歴代の先生方が園児のために心を込めて作った衣装だった。

 床の上に散乱する衣装の一枚を、大森さんが手に取った。

「ふーん、幼稚園の先生って、こういうのも手作りされるんですねぇ……。すごいですねぇ」

 衣装を広げてしげしげと眺めている。私は背中を強打して、すぐに動けないでいると……

「私には、幼稚園の先生はやっぱり無理だわ」

 大森さんはそう言って、力いっぱい両手で衣装を引っ張り、それを裂いたのだった。

「……っ!! ちょ、な……、やめて!!」

 立ち上がりたくても、背中が痛くて反応が遅れる。そんな私を嘲笑うかのように、大森さんは次々と衣装を破っていく。もはやこれは、正気の沙汰ではない。
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