グラス越しの二人

たとえ常連であっても、客への干渉は道理に合わない。
マスターにしてやれることは、せめてもの慰めに冷めてしまった飲み物を無償で交換してあげる事ぐらいだろうか、
冷え切った心を少しでも温めて欲しいと願っていた。


(またそうなるか、、)

結末は昨日見てきたかのように脳裡に浮かんだ。



男女はこの店の半常連だった、3年ほど前から月に2回ほど待ち合わせ場所として使われていた、男がスーツ姿であることを考えると、近くに勤め先があって、仕事帰りに女と落ち合っていることは容易に推察できる。
男と年齢に大差のない女性は、学生らしくカジュアルな服装に身を包み、教材が入っているであろう重たそうなショルダーバッグをいつも持ち歩いていた。


半刻前、
少し遅れて訪れた女が注文したカフェラテをテーブルに運び、男の残り少なくなったグラスに水を注ぎ足して、ごゆるりとと、ありきたりな声を掛けた。

マスターが背を向け、席を離れるのを見計らって女が口を開いた。

「結婚の話は忘れて……」

「どうして、、気が変わったのか?」

漏れ聞こえる会話をつなぎ合わせたマスターの見立はこうだ、
数日前、長い交際を経ても一向に進展しない恋の行く末に痺れをきらしたのか、女は結婚話を持ち出したらしい。
ところが男の反応は鈍く、意に反して別れ話にも発展しそうな気配に女は祈るように黙り込んでしまった。

< 2 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop