憧れの街で凄腕脳外科医の契約妻になりました。



 本田先生に喝を入れる仁田先生。

 亜矢の手術だからだろう、仁田先生はいつもより酷くピリついている。だが、その喝は今の本田先生には逆効果だ。

「本田先生、大きく息を吸って、吐いて深呼吸してください」

 俺の指示通りに大きく深呼吸をする本田先生。やっと平常心になったらしく、「うっし!」と気合が入る声が聞こえた。

 平常心を取り戻したからか、仁田先生に友達がいないのが気になったらしい本田先生は、「というか、仁田先生、他に友達いないの?」と、絶対に今聞くべき内容ではないことを質問した。

 仁田先生は「いませんね! 私ずっと一匹狼だったもんで、亜矢ちゃんはやっとできた友達……いや、親友ですね!」と言い返している。

「それを言うなら同じしんゆうでも、親友じゃなくて神癒でしょ」

「やっかましいわ、ハゲ」

 幼稚な言い争いが始まった。

 麻酔科医の柳先生も、仁田先生と本田先生が喋っているのが気に食わないのか、「ミスんじゃねぇぞ、ハゲ」と、本田先生を煽りながら「バイタル安定してますー! 執刀医の羽倉先生ー手術をどーうーぞー」と、早く始めるように急かした。

 そんな三人のやり取りを聞いていた小川先生が俺の真後ろで「ぶっ!」と笑いを吹き出している。前言撤回。落ち着かせるんじゃなかった。この三人には緊張感を取り戻してほしい。

 気を取り直して、

「これより咲村亜矢さんのバルーンカテーテルを用いた未破裂脳動脈瘤トラッピングバイパス術を始めます。最小限の頭皮切開をしたのち、頭蓋骨の一部を開口し、手術顕微鏡で進めていきます。練習した通りに進めますが実物は異なる場合もあるため、細かく指示は出していくのでよろしくお願いします」

 ――俺の合図で亜矢の手術が開始された。


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