シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 青々と茂る庭の入り口の木々は、雨粒に濡れてキラキラと輝いている。
 梅雨の雨粒すらこんなに美しく見えるのは、それだけこのお屋敷が格式高い場所だからなのだろう。

 敷かれた石畳に、靴やスーツケースについた泥が跳ね、跡をつける。
 その度に、私は幾美家に拒まれている人間なのだと思い知らされる。

 春先に、車で来た時には気づかなかった。
 私は、これほどまでにこの場に場違いな人物であるということに。

 ガラガラとスーツケースを転がしながら、幾美家のお屋敷の玄関にたどり着く。
 玄関の戸を開けたのは、母だった。

「いらっしゃい、希幸」

 一介の家政婦のように私を出迎えた母は、複雑そうな顔をする。
 何か聞いているのだろうか。

「荷物はここに置いて行きなさい。それから、私も同席するよう言われてるの。応接室で、待ってなさいね」

「はい」

 分かっていたことだけれど、もちろん幾美家の人たちは私を出迎えたりはしなかった。
 この間訪れた時には、他の家政婦や幾美家ご夫妻も出迎えてくれたのに。

 ごくりと、唾を飲みこんだ。けれど、こみ上げた不安は全然収まってくれそうにない。
 私は、招かれざる客なのだ。
< 107 / 179 >

この作品をシェア

pagetop