シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 閑静なお屋敷の立ち並ぶ高級住宅街を、石造りの塀に沿って歩く。
 しとしとと降り続く雨は、私の足元を容赦なく濡らす。
 歩くたびにぴちゃん、ぴちゃんと音が立つ。その音にすら、自分がこの場にそぐわない人物なのだと、言い聞かされているようだ。

 塀が途切れたところで、鋳作りの立派な門戸が現れる。
 『幾美』と書かれた表札を、しばらく見つめた。
 インターフォンを押す。すると、懐かしい声が聞こえた。

「どちら様でしょうか」

「お母さん――? 希幸だよ」

 こんな気持ちで、会いたくなかった。
 けれど、会わなくてはならない。

 母は、このお屋敷で働いているのだ。

「来たのね。聞いてる。どうぞ」

 門が私を招くように開く。私はそっと、その敷地内に足を踏み入れた。
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