シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「どうして? 慧悟と想い合っているのは希幸ちゃんなのよ? 希幸ちゃんのお腹には赤ちゃんだっているのよ!?」

 彩寧さんは狼狽えたような顔をしている。

「私は、これ以上私のわがままで大切なものを壊したくないんです」

「大切なもの……?」

「私が身ごもってしまったから、奥様を怒らせてしまいました。私が身ごもってしまったから、オーベルジュの皆に迷惑をかけました。私が身ごもってしまったから、慧悟さんの会社だって――」

 言いながら、声が震え出す。
 それ以上先を紡げなくなり、私はせめて涙を流すまいと唇をきゅっと結んだ。

「希幸ちゃん……」

 彩寧さんが心配そうに、私の顔を覗いた。
 けれど私は、続ける。

「私は、お腹の子を一人で産んで育てる覚悟を決めていました。だから、元に戻るだけです」

「でもね、希幸ちゃん。慧悟がいるんだもの、一人で抱えることないじゃないわ」

「それでも! 私はこれ以上、幾美家を――慧悟さんの守ってきたものを、壊したくはないんです!」

 大好きだから。
 慧悟さんのことも、幾美家のことも。
 大好きなものが、大好きなままで、そこにあってくれる方が私は嬉しい。

「私は生涯、幾美家には関わらないようにします。それから――」

「あのね、希幸ちゃん。私は、慧悟なら――」

「慧悟さんが悲しまないように、お腹の子をお願いできますか?」

 私は何か言おうとする彩寧さんの言葉を遮った。
 ここで何かを言われたら、もう何も言えなくなってしまいそうだった。
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