シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 慧悟さんの言葉に、耳を疑った。

「いらっしゃらない、のですか……?」

「ああ。ここに泊まっているのは、僕だけだからね」

 慧悟さんは笑って、暖炉の前に置かれたテーブルに歩み寄る。

「ここに、準備してもらえるかな?」

「は、はい!」

 慌ててワゴンを押し、部屋の半ばまで足を踏み入れる。
 ケーキは二皿。
 テーブルを前にどうしようか迷っていると「一組はこっちに」と慧悟さんに言われた。

 きっと、彩寧さんは用事があってあとから来るのだろう。
 ティーポットをセットしながら、そんな事を思う。

 けれど。

「どうぞ、こちらに」

 慧悟さんは私の方を向き、暖炉側の椅子を引いた。
 まるで私に座れ、と言わんばかりに。

「え……?」

「僕は君と話がしたかったんだよ、希幸」

「でも、彩寧さんが――」

「言ったでしょ? 彩寧はいないよ」

 その甘い微笑みに、絆されそうになる。
 私はただの、このオーベルジュのパティシエールなのに。

「ほら、座って。僕の可愛いお姫様」

 幼い頃に私にそうしてくれたように、慧悟さんが言う。
 私は仕方なく、けれどちょっとの期待と共に、彼の引いた椅子に腰掛けた。
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