シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 それから、料理長との打ち合わせを行った。
 幾美家ご夫妻へのメイン料理を決めると、それに似合うデセールの提案を済ませた。
 今回は、私の一番の得意であるショコラ系をメインに、旬のフルーツと温泉卵を使ったデセールにすることが決まった。

「前埜さんは幾美家に、大事にされていたんだね」

 たまたまご予約の電話を取った料理長は、幾美家ご夫妻から私のことを聞いたらしい。

 幾美家の皆さまは、本当に私に優しかった。
 家政婦の家系の者だから、という理由だけなのだろうけれど、それでもたくさんの恩がある。

 夢を応援もしてくれたし、進学のお祝い金も出してくれる。そんな優しい人たちだ。

 私に、慧悟さんとは結ばれないのだと教えてくれたのも、幾美家の奥様――慧悟さんのお母様だった。

 *

 十一歳の冬。
 友達がバレンタインデーにチョコレートを好きな人に渡したいというから、私も一緒になってチョコレートを作った。
 もちろんそれまでも、慧悟さんにチョコレートを渡したいと思ったことはある。けれど、バレンタインの時期はパーティーなどが直近でなく、慧悟さんに会うのは難しかった。

 けれど当時、私はもう小学校高学年。
 一人で慧悟さんの家にも行けると勇気を出した。

 その日、学校が終わると、急いで家に帰り急いで着替え、慧悟さんへのプレゼントを手に家を飛び出した。

 慧悟さんに渡すのは、もちろんガトーショコラだ。
 慧悟さんのために作ったそれを、バレンタイン当日に渡せる。ワクワクとドキドキで胸がいっぱいだった。
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