シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「幾美様、大変失礼したしました!」

 車から降りてきた彼女を見て、守衛さんは私の腕を掴んだまま、低く頭を下げる。

「その子、うちの家政婦の娘なのよ。赦してくださる?」

「気をつけるんだよ」

 守衛さんは何でもなかったようにそう言って、拘束していた私の腕を解いた。
 とりあえずほっとした私に、奥様は「いらっしゃい」と手招きする。
 奥様が車に乗り込んだので、私もおずおずとその後に続いた。けれど、車は発車しない。

「希幸さん、あなたは何をしに来たの?」

 静かな、それでいて迫力のある声に、胸がひゅっとなる。
 それで、私は黙ってしまった。同時に、手にしていた紙袋を、きゅっと握った。

「それは?」

 指を差される。
 私は中身を開いて見せた。

「チョコレートです。慧悟さんに渡したくて……」

 奥様は何か考えるようにどこかを右上を見つめた。
 それから、「今日は14日だったのね」と独り言つ。

「ねえ、希幸さん」

「は、はい!」

 こちらをじっと見た奥様の顔は、とても真剣なものだった。だから私も、真剣な顔を返す。

「慧悟のこと、好きなの?」

 探るような視線は今なら居心地が悪く感じるのだろうが、当時の私は『好き』の2文字に頬が熱くなってしまった。
 けれど恥ずかしくて、「好きです」とは言えない。

 そんな私を見て、奥様は溜息をついた。

「慧悟のことを好いてくれるのは嬉しいわ」

 奥様の声に、私ははっと顔を上げた。
 優しく微笑む奥様は、どうやら慧悟さんへの恋心を認めてくれるらしい。

 嬉しくなり、笑みが漏れる。
 私と慧悟さんの未来を想像し、幸せな気持ちになる。

 けれど。

「でもね、あなたは慧悟と付き合うことはできないの」

 奥様の言葉に、雷が落ちるような衝撃を受けた。
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