シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 車を降り、来た道を歩いて戻った。
 キラキラした櫻坂を、一人でとぼとぼと歩く、場違いな小学生。

 暮れなずむ街。幸せそうなカップルたちが、すれ違ってゆく。
 こぼしたため息すら白く残り、イルミネーションに照らされて輝く。

 初めての恋は、伝えることなく散っていった。

 *

 奥様の忠告は、私の恋心をそれ以上傷つけないためのものだったのだろうと、今なら分かる。
 幾美家の人たちは皆、優しくて温かい人たちなのだ。

「幾美家の皆様は、本当に私に良くしてくださいました」

 言いながら、複雑な気持ちになる。
 それを悟られたくはなくて、私は料理長に笑顔を向けた。

 今は料理長とのミーティング中だ。料理長に、私の事情は関係ない。

「本日もよろしくお願いします」

 気持ちを切り替えるように、料理長にそう言った。
 今日のオーベルジュも、新しい一日が始まる。
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