シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 午後6時ぴったりに、幾美家のご夫妻はご来店された。
 今日ばかりは、厨房にいた料理長も私も、店頭に立ちお二人をお迎えする。

 スタッフ共々二列に並び、頭を下げた。
 旦那様も奥様も、あの頃と変わらず背筋をピンと伸ばし、見惚れるくらい綺麗に歩いてくる。

 仲睦まじい二人を見ていると、未来の慧悟さんと彩寧さんが重なる。
 あそこに立てるのは私ではないと、改めて思い知らされる。

「希幸さん!」

 奥様が私に気づき、駆け寄ってきた。
 旦那様も後からのんびりとやってきて、奥様の横に並ぶ。

「ご無沙汰しております」

 もう一度頭を下げた。

「ふふ、本当にコックコートを着ているのね」

 慧悟さんか彩寧さんに聞いたのだろう。
 二人は「似合っている」「夢をかなえてくれて嬉しい」とにこやかに話しかけてくれる。

 私は二人に、笑みを向けた。
 けれど心の奥では昨晩の過ちを思い出し、懺悔の気持ちでいっぱいだった。

「幾美様、お待ちしておりました」

 二人の会話が落ち着いたところで、オーベルジュのオーナーがやってくる。

「姫川くん、今日は急にもかかわらず、ありがとう」

 旦那様が言うと、オーナーは優しく微笑んだ。

「いえ、幾美家皆様でこのオーベルジュをご贔屓くださっているので、私としては嬉しい限りですよ」

 二人がオーナーに連れられ店内へ入っていく。
 私はほう、と胸をなでおろした。
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