シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
「それじゃあ、早速なのだけれど――」

 ご夫妻の意見を伺うと、2~3品、一口で食べられるものということだった。

「こんなイメージがいい、など要望はございますか?」

「基本的にはお任せで良いのだけれど。そうだなあ、初夏を思わせるような爽やかなもの、がいいかなぁ」

「そうね。でも一番は、希幸さんらしさがあるものがいいんじゃないかしら」

「私らしさ……」

 私が口の中で独り言ちていると、旦那様が左腕を上げ、ちらりと時間を確認した。
 慧悟さんのと同じ、金色の高級そうな腕時計がついている。

「もうこんな時間か、そろそろお暇するよ」

「ご宿泊は――」

 オーナーの言葉に、旦那様がそっと手を上げ遮る。

「いや、今日はこのまま帰るよ。急な来店にも関わらず、こうも良くしてもらえて満足だ。これ以上、オーベルジュに無理を言って迷惑はかけられないさ」

 立ち上がりながら、旦那様は私にも笑みを向ける。

「希幸さん、パーティーのドルチェ、頼んだよ」

 立ち上がった奥様も、上品な微笑みを向けてくれた。
 慌てて頭を下げる。

「精一杯、頑張らせていただきます」

 私はオーナーと共にオーベルジュの入口まで、二人をお見送りする。
 二人がオーベルジュから出ていくと、オーナーが私の肩をぽん、と軽く叩いた。

「いやあ、すごいね前埜さんは。ここのデセールと幾美家のパーティー。しばらく二足わらじで大変だと思うけれど、頼んだよ」

「はい!」

 私は決意を新たに、オーナーへ返事をした。

 仕事と私情は別だ。
 昨夜のことは、忘れよう。
 目の前にあることを、やっていこう。

 レセプションパーティーのドルチェ。
 それが終わったら、慧悟さんと彩寧さんの、ウェディングケーキだ。
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