シュクルリーより甘い溺愛宣言 ~その身に愛の結晶を宿したパティシエールは財閥御曹司の盲愛から逃れられない~
 業務を終え、厨房の隅の作業机に腰掛けた。
 コックコートを脱ぎ、傍らに置いて、スケッチブックを開く。

 そこには、昨夜デザインしていたウェディングケーキが描いてある。

 不意に脳裏に昨晩の慧悟さんとのことが浮かび、目の前のそれを思わず鉛筆で黒く塗りつぶした。

 けれど、すぐに我に返る。
 ウェディングケーキの部分はスケッチブックから破り、丸めてくずかごへ放った。

 これを見ると、私は駄目になる。
 今は、パーティーのドルチェに集中しよう。

 初夏をイメージした、爽やかで、私らしいドルチェ。
 
 ショコラにミントをプラスしようか。
 清涼感は出るけれど、苦手な方が多いかもしれない――。

 心を入れ替え、私はスケッチブックに鉛筆を滑らせた。

 *

 一週間が過ぎた。

 あの日から、慧悟さんはお店に現れない。
 やはり、あの夜は過ちだったのだ。慧悟さんもそれを思って、オーベルジュに来なくなってしまったのだろう。

 彼からの連絡も一切ない。
 これは、彩寧さんに、私の連絡先を絶対に教えないよう伝えたのもあるとは思うが。

 私は、オーベルジュのデセールの監修の合間に、パーティーのドルチェの試作を繰り返すという忙しい日々を送っていた。

 一口で楽しめる、私らしいドルチェとは。

 ショコラを主役にしつつ、甘みを押えてベリーを加え、カラメルのほろ苦さも加えればそんなにしつこくならないかもしれない。

 そう思い、今夜も営業終了後の厨房で、試作を始めた。

 砂糖と水を合わせ、キャラメリゼを作っていく。

 きつね色になった鍋底を見て、もう少し、もう少しと火を加える。
 釜で焼いたショコラプディングに艶を出すようにかけると、香ばしい黄金の香りが鼻に届く。
 香りのイメージはバッチリだ。
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