人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 人には得手不得手がある。適材適所に人を利用するのに長けていたのがルーファなのだ。だからこそ、彼は治癒師の師長として治癒師たちをとりまとめていた。
 そんななか、チャーリーの解呪者として使命されたのがルシアである。たとえ相手が遊び人で数多くの女性を泣かせたような男であっても、仕事は仕事。そう割り切って彼の呪いを解く。
 その結果、男の呪いは解けたが、呪いそのものは残った。解呪をしたルシアに呪いが移った。
《なんて、あんな遊び人な男の呪いを解くのよ。今度は、あんたを呪ってやる!》
 それがクレメンティと初めて出会ったとき、彼女が言い放った言葉でもある。
 まさか呪いの根源の声が聞こえるとは思っていなかったルシアは、なんとなくそれに返事をすると、クレメンティも面食らった様子。
《あなた、私が見えるの?》
 そこからクレメンティとの生活が始まった。彼女の話を聞けば、二百年ほど前に生きていたらしい。しかも、どこか良家のお嬢様でもある。
 とにかく二百年前に生きていたクレメンティ自身が、男に騙された。
 結婚を約束していた相手だった。だからそのまま結婚すると思っていた。なのに彼は、クレメンティの屋敷から金や権利書を盗み出して、どこかに消えた。
 彼は最初からクレメンティの財産を狙って、彼女に近づいたのだ。財産を奪われたクレメンティの家は没落した。
 それから彼女の両親は馬車馬のごとく働き、身体を壊して亡くなった。そしてクレメンティ自身も――と、よくある俗っぽい小説のような展開である。
《だから、男って嫌いなのよ!》
 ルシアに心を開いたクレメンティは、飲んでもいないのに酒に酔ったかのようにして、くだを巻いていた。
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