人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

 それがきっかけとなり、クレメンティはルシアに少しずつ自分のことを話すようになった。彼女だって、好きで呪具に取り憑いているわけではない。やはりこれも、クレメンティの生前の強い気持ちが、ここに縛り付けているだけ。
 誰かの気持ちに同調したのか、引っ張られたのか。
 どうやったらクレメンティが成仏できるのかさえもわからない。
 それでもそうやって二人でいると、なんとかなるさ精神も身につくというもの。
 そのクレメンティは、クズ男退治をいう目標を掲げていた。
「あの人。騎士団の人間だったから、ここにいてもおかしくはないんじゃないの? あれも五年前だから、あの人も三十近くになってる? 年齢的にも、遊び人を卒業したんじゃないの?」
《違うの! あの男。休憩室に女を連れ込んでいた。遊び人は、いくつになっても遊び人なのよ》
 またクレメンティのクズ男撲滅運動に火がついてしまった。
 ルシアがそんなクレメンティを宥めていると、入り口の扉が遠慮がちに開く。扉の隙間から這うようにして一筋の光が入り込んできた。その光は次第に広がっていく。
「お義父さん?」
「あぁ、ルシア。起きていたのか?」
「水、飲む?」
 薄暗い部屋であっても、ルーファの顔がいつもより赤らんでいるのは見てとれた。酒が好きなルーファだが、顔に出ないわけではない。
「ああ、頼む」
 そう答えたルーファは、少し離れたソファにどさりと身体を沈めた。これは、かなり飲んできている。酒が美味しかったのか、楽しかったのか。もしくは久しぶりに会った友人に飲まされたのか。
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