人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
小さく息を吐いて、グラスを片付ける。
「クレメンティ、いないの?」
声をかけてみたが、彼女からの返事はない。
カイルの父親のことを相談したかったのに、こういうときにかぎってクレメンティはふらふらとどこかを飛び回っている。
話し相手を失ったため、ルシアも寝ることにした。
カイルと同じベッドに潜り込む。
カイルによく似た人がいる。
カイルの父親についていろんな人から聞かれる。
そして今、ルーファからの言葉。
(やっぱり、あのときの人が近くにいる?)
カイルを授かったとわかったときに、あのときの相手が気にならなかったわけではない。
でもあれは治療行為であったし、彼だってこうなるとは思ってもいなかっただろう。むしろ、いろいろと治療行為の手順を誤ったルシアのせいでもある。
だからこそ、カイルの存在をあのときの男に知られてはならない。
(あの人に、迷惑はかけられない……)
となれば、やはり知らない振りをするしかない。
いや、目の前にあのときの男がいたとしても、気づかない可能性のほうが高い。知らない振りというか気づかない振りをして、他人のそら似と言い切ればいい。
世の中には、自分に似ている人が三人もいるというのだ。その三人のうちの二人が出会っただけ。
カイルの小さな手をそっと握りしめる。
このぬくもりだけは失いたくない。
「クレメンティ、いないの?」
声をかけてみたが、彼女からの返事はない。
カイルの父親のことを相談したかったのに、こういうときにかぎってクレメンティはふらふらとどこかを飛び回っている。
話し相手を失ったため、ルシアも寝ることにした。
カイルと同じベッドに潜り込む。
カイルによく似た人がいる。
カイルの父親についていろんな人から聞かれる。
そして今、ルーファからの言葉。
(やっぱり、あのときの人が近くにいる?)
カイルを授かったとわかったときに、あのときの相手が気にならなかったわけではない。
でもあれは治療行為であったし、彼だってこうなるとは思ってもいなかっただろう。むしろ、いろいろと治療行為の手順を誤ったルシアのせいでもある。
だからこそ、カイルの存在をあのときの男に知られてはならない。
(あの人に、迷惑はかけられない……)
となれば、やはり知らない振りをするしかない。
いや、目の前にあのときの男がいたとしても、気づかない可能性のほうが高い。知らない振りというか気づかない振りをして、他人のそら似と言い切ればいい。
世の中には、自分に似ている人が三人もいるというのだ。その三人のうちの二人が出会っただけ。
カイルの小さな手をそっと握りしめる。
このぬくもりだけは失いたくない。