人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 ルーファは見知った顔を見かけると、あまり羽目を外さないようにと釘を刺していた。
 いつもと違う何かに、ルシアの心も弾み始める。
 三十分も歩くと、カイルがぐずぐずと言い出した。荷物があるうえにカイルを抱っこして残りの道を歩きたくはない。
 途中から裏道へと抜け、人力車をつかまえた。
 半日ぶりに戻ってきた我が家であるが、ルーファは早速治癒院を開ける準備をしていたし、ルシアもためてしまった洗濯物にとりかかった。
 その間のカイルは、ルシアの側で洗濯の手伝いをする。いや、水遊びかもしれない。それでも目の届くところにいてくれるから、それだけでも安心する。
 今日は朝から太陽がやさしく輝いている。ロープに洗濯物を干すと、穏やかな風が吹く。
「よし、終わった」
「おわった。おまつり」
「その前に、カイルは着替えないとね。びしゃびしゃの服では、行けないわよ」
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