人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

3.

 その言葉に、カイルはむっと頬を膨らませた。だがシャツの袖口もズボンの裾も、水分を含んで色が変わっている。
「風邪を引いたら、お祭りにいけなくなってしまうもの」
 洗濯をしたら洗濯する物が増えたが、それはいつものこと。それよりもカイルに着替えをさせるほうが先である。
「あ、こら。待ちなさい」
 カイルが逃げた。
 キャキャッと子ども特有の甲高い声をあげて、家の中へと入っていく。
「カイル、捕まえたぞ」
「じぃじ、はなして。じぃじ。ママくるから、はなして」
「お着替えしない子は、はなさないぞ」
 ルーファはするするっとカイルのシャツとズボンを脱がせる。こういう特技はどこで覚えたのか、ルシアは不思議で仕方なかった。
 すぐさまルシアが新しい服をカイルに着せた。
「よし、カイル行こう。お義父さん、お祭りいってくるね。お昼ご飯も買ってくる。何か、食べたいものある?」
「うーん。まかせる。ぱっと思い浮かばない」
「わかった。カイルに選んでもらう」
 そう言っておけば、何を買ってきても許される。
 ルシアはいつものエプロンワンピースの上に、上着を羽織った。
「あれ?」
 上着のポケットに何かが入っている。
「あのときの……」
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