人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 一昨日、クレメンティと薬草店に行ったとき、その帰り道で拾った怪しい包み。中身は、間違いなく何かの薬である。そして、絶対に怪しいもの。
「お義父さん」
「なんだ?」
「これ。薬草店に行ったときに拾ったんだけど、もし、時間があったら成分分析してくれる?」
「なんだこれは……。見るからに怪しい薬だな」
「そうなの。もしかしてこれ。魔薬じゃないかって思ってて……」
 女性に絡んでいた男。あの男の挙動が気になった。それに『∵』も、他の人たちとなんとなく異なっているように見えた。
「わかった」
 ルーファに怪しい包みを手渡して、ルシアは治癒院を出た。
 外に出た途端、人々の賑やかな声が聞こえてくる。治癒院は、大通りから一本はずれた場所にある。少し歩くと、すぐに大通りに出るのだが、どこからともなくいいにおいが漂ってくる。
「うわぁ」
 凱旋パレードが行われた大通りには、たくさんの人が溢れていた。王都のどこにこれだけの人がいたのだろうと思えるくらいの人、人、人。
「すごいね、カイル」
「しゅごい、しゅごい」
 カイルの手をしっかりと握っていないと、迷子になってしまうかもしれない。
「カイル。絶対に手をはなしちゃだめよ」
「あい」
「では、いきましょう」
< 108 / 252 >

この作品をシェア

pagetop