人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!

2.

 ルーファとルシアの本当の関係は師弟関係。孤児院にいたルシアを連れてきたのがルーファなのだ。当時の彼は、各地を転々と歩いて、魔力のある子を探していたらしい。そのお眼鏡にかなったのがルシアだった。そして、いろんな手続きを簡素化するために、ルーファはルシアを養女とした。師弟関係でありながら、親子関係であったほうが何かと都合はいい。だから、娘というのは嘘ではない。
 それからというもの、ルシアは王宮治癒師見習いとしてルーファの元で修行に励み、それが実って王宮治癒師となった。
 だが、四年前、彼女は突如として王宮治癒師を辞めた。理由は、カイルを授かったからだ。
 その事実に一番驚いたのはルーファだろう。相手は誰だと詰め寄ってきた。だが、ルシアは人の顔がわからない。あのときの相手の名前を聞いていない。だから、カイルの父親が誰であるかなんて、ルシア自身もわからなかった。相手は『∵』の男。
 それでも治癒師は貴重な存在である。その彼女が子を授かったとなれば、いろんな意味で狙われるだろう。まして、その子も。
 そう思ったルーファは、王宮治癒師を辞めて王都に治癒院を開きたいと提案した。以前から、治癒師や魔法使いを王宮側で囲ってしまうのはいかがなものかと、議題にあがっていたためだ。もちろん、王宮付きではない者もいるが、国が認めた治癒師や魔法使いを民のためにも、という案が出ていた。
 それにうまく便乗したのがルーファである。王宮側としては、ルーファを手放すのは惜しいと思ったようだが、王都で治癒院を開くだけであれば、近くにいるのだからと安心したようだ。それと同時にルシアも辞めたが、女性の治癒師へはあまり追求してはならないことになっている。それは、彼女たちを守るための処置でもある。
 だが、ごく一部の関係者には、ルシアがルーファの娘というのは知られていたため、それとなく納得している部分はあった。
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