人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
「あらあら。カイルちゃん。おめめが大きくてこぼれそうねぇ。ほっぺたもふくふくとして。本当にかわいらしいこと」
 先ほどからマリも目尻が下がっているにちがいない。ルーファのことを言えたものではないだろうに。
「はい、お義父さん」
 ルシアがルーファの前にカップを置き、カイルの前にはジュースの入ったグラスを置いた。
 カイルはすぐにグラスに口をつける。
「パンも食べる?」
「たべる」
 カイルの目は不思議な色をしている。髪の色はルシアに似たけれど、瞳の色は異なってしまった。ルシアは鈍色の瞳だが、カイルは金糸雀(かなりあ)色。珍しいこの色は、きっとお相手の方の色なのだろう。
 人の顔がわからないルシアだが、それにも例外はあった。その例外がカイルとルーファなのだ。
 つまり、家族。ようするに、家族であれば、顔がきちんと顔に見える。
 だからルーファの灰色の髪も、青い目もしっかりとよく見える。だけど、マリだけは『∵』。
「おいし」
 ちぎったパンを口に入れて、もぐもぐとしているカイルを、ルーファもマリも、ほぅと息をつきながら見ていた。
「こう見ると、カイルちゃんは本当にルシアちゃんに似ているわねぇ」
「それって、私もかわいいということですね」
「あら、やだ」
 どうでもいいやりとりも楽しいもの。
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