人の顔がすべて『∵』に見えるので、この子の父親は誰かがわかりません。英雄騎士様が「この子は俺の子だ」と訴えてくるのですが!
 そしてルシアが拾った見るからに怪しい薬の成分分析の結果も出たのだが、予想通り、魔薬が検出された。となれば、これは騎士団へ届けなければならない。祭りの期間中ではあるが、ルーファは急いで報告書を作り、それを騎士館へと届けるようにと配達人に頼んだ。
 祭りが一日、二日と過ぎていくと、ルーファが言っていたように、怪我をした者が多く治癒院を訪れるようになってきた。
 はしゃいで舞台から落ちた子ども、酔っ払って喧嘩をした若者、人とぶつかって転んだ老人など、普段であれば怪我をしないようなところで怪我をしてくる。
 そのたびに治癒魔法を使うルーファは、祭りが五日経った頃から、その顔に疲労の色を濃くにじませていた。
 そして六日目の朝、とうとう起き上がれなくなる。
「お義父さん、大丈夫?」
 時間になっても起きてこなかったルーファを起こすために、カイルを連れて彼の寝室に入ると「うんうん」とうなっていた。
「じいじ、どうした?」
「お義父さん……もしかして、魔力切れじゃ……」
「そうとも言う……」
 むしろ、そうとしか言わない。
 怪我をした者に対して治癒魔法を使う。
 そして治癒院が閉まっている夜間であっても、怪我人はやってきた。むしろ、大きな怪我をして焦るからこそ、時間なんて気にしないのだろう。人のよい彼はそれを受け入れた。
 寝ていても、扉をどんどんと叩かれれば対応する。
 魔法使いや治癒師は、眠って魔力を回復するのに、そうやっていつでも怪我人を受け入れた結果、魔力回復の時間をルーファは十分に取れなかった。
「とりあえず、魔力回復薬を一本……」
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